『部下がスグ辞める上司』『辞めない上司』の差
■部下を辞めさせる上司とは
あなたの部下は、仕事にやりがいを感じていますか?
それとも、今すぐにでも辞めたいと思っていそうですか?
もし、自分の部下が仕事を辞めたいと思っていたなら、ショックですよね。
部下を辞めさせる上司というのは、会社から評価されません。
「あの人はすぐ部下を辞めさせる」
そういう人には部下をつけてもらえなくなり、最悪の場合、降格もありえます。
部下をやる気にさせられない人、部下を育てられない人として、マネージャー失格の烙印を押されてしまうわけです。
はじめて部下をもった新任上司にとって、部下を辞めさせてしまうか、そうでないかは重要な問題です。
私は実際、多くのリーダーを見てきましたが、「部下を辞めさせる上司」と「辞めさせない上司」の違いは、明確に存在します。
それは、どこにあるのでしょうか。
この違いを理解するには、まず、部下がなぜ辞めるのか、このメカニズムを理解する必要があります。
行動心理学に基づけば、人が辞める理由は2つに分かれます。
①衛生要因(外的要因)
②動機付け要因(内的要因)
衛生要因とは、賃金が低い、職場環境が悪い、労働時間が悪いなど、仕事の中身ではなく、外から与えられる喜びのことで、外的要因とも言います。
部下を辞めさせる上司は、部下が辞める理由を「衛生要因」だと考えます。
実際、「給料が低いから」「職場が家から遠いから」「労働時間が長いから」と衛生要因を退職理由にあげる人が多いのですが、それは見せかけの理由です。
終身雇用の時代では、人は「辞める理由」がないと辞めませんでした。
しかし、今は「辞める理由」がなくても辞めてしまいます。
逆に、「続ける理由」がないから辞めてしまうのです。
続ける理由に当たるのが、「動機付け要因」です。
内から湧き上がる欲求である「動機付け要因」を引き出せていないから、部下が辞めてしまうわけです。
では、具体的に「動機付け要因」とはどういうものなのでしょうか。
<5つの動機付け要因>
① 達成感……目標を達成した喜び
② 成長感……過去の自分から変化し、成長している喜び。
③ 有意味感……仕事に意味を感じる、充実感がある
④ 有効感……自分の力が組織に貢献している喜び、やりがい
⑤ 自己決定感……自分で決めたことだと感じている喜び、自発性
主なものはこの5つです。
■なぜパチンコはハマるのか?
同じ仕事や作業でも、動機付け要因を感じるときと、感じないときがあります。
例えば、パチンコは、多くの人がのめり込み、わざわざ朝早くから列に並んででもやりたいと、人が集まる人気の娯楽です。
普段、仕事では全くやる気のない人も、パチンコには通う……。その情熱を仕事に向けてくれたらいいのに、という人、周りにいませんか?
パチンコも、動機付け要因がなければ全く面白くないはずです。
「作業」だけを見れば、パチンコという作業は退屈です。
それでお金がもらえるかといえば、むしろ負けて、時給換算したらマイナスになったりするわけですから、衛生要因で見れば、最悪な作業ということになります。
ところが、パチンコには動機付け要因があります。
球が入ったという「達成感」、「7が揃った」という「有意味感」、自分の台の選びがうまくいったという「有効感」、負けていたとしても「あと1万円だけ」と自らお金を投入する「自己決定感」……。
動機付け要因がなければ「お金をもらってもやりたくない作業」が、動機付け要因によって「お金を払ってでもやりたい作業」に変貌するわけです。
あなたの部下は、パチンコにのめり込む人のように仕事に熱中できているでしょうか?
部下の仕事が、ただこなすだけの「作業」になっていたら、それは「苦痛で退屈でお金をもらわないとやってられない仕事」ということになります。
仕事が面白くないので、いつも辞める理由を探すことになります。
部下を辞めさせる上司は、部下が辞める理由を衛生要因(外的要因)だと考えがちですが、実は、動機付け要因(内的要因)を与えられていないのです。
では、どうすれば動機付け要因を与え、部下が辞めない上司になることができるのでしょうか?
能力が未熟な新任上司でも動機付けをすることができるのでしょうか?
実は、非常にうまく行く仕組みがあります。
それは、「感謝の仕組み」です。
「感謝」は、実にカンタンに使うことができます。
能力は必要ありません。
これを「仕組み」として使うことで、部下は目標を持ち、成長を感じ、有意味感、有効感、自己決定感を感じるようになります。
あなたは、部下に対して感謝していますか?
そして、その感謝を伝えていますか?
感謝というのは、ものすごいパワーを持っています。
感謝を伝えられる上司には、人が集まり、人が育ち、人が離れません。
感謝を伝えられない上司では、人が育たず、人から避けられ、人が離れます。
仕事でもプライベートでも、感謝を伝えられる人になることが重要です。
■最強の上司とは
では、なぜ上司は感謝できないのでしょうか。
感謝には、3つの段階があります。
<感謝の3レベル>
①「結果」への感謝
②「行動」への感謝
③「存在」への感謝
感謝できない人は、「結果」を出さないと感謝しない人です。
結果を出す部下には「君のおかげで達成できたよ」と感謝の言葉をかけることができるのですが、結果を出せない部下にはどうしても厳しくなってしまいます。
すると、「行動」に感謝できません。
部下が資料を作っても「なんだこの資料は」「全然なってないな」「やる気あるの?」と言葉がきつくなります。
部下は、「この人には何をやってもムダだ」と、あなたのために頑張りたいと思わなくなります。
存在への感謝ができる人は、最強です。
実際に存在に感謝できているチームというのがあって、そういう職場は、朝の挨拶の態度からして違います。
「いてくれてありがとう」「今日も仕事に来てくれてありがとう」「頑張ってくれてありがとう」と、部下の存在そのものに感謝の気持ちがあるので、部下は毎日、「今日も会えてうれしい」「職場に行くのが楽しい」という気持ちをお互いが抱くようになります。
素晴らしいチームだと思いませんか?
部下を辞めさせる上司は、存在に感謝することの重要性に気付いていません。
「存在への感謝を伝える仕組み」を身に付けると、あなたのチームの部下は、職場に行くのが楽しく、徐々に自分で目標を持ち始め、達成感や成長感を得て有意味感、有効感、自己決定感を持って仕事をするメンバーへと変わって行きます。
<存在への感謝を伝える3つの仕組み>
①挨拶リアクション
②発言リアクション
③仕事リアクション
①挨拶リアクション
朝の挨拶で、あなたはどうリアクションしていますか?
部下に会えてうれしい、ありがたい、と思って挨拶していますでしょうか。
あなたの感謝の気持ちは、部下に伝わります。
感謝の気持ちがあれば、目を見て、気持ちを込めて「おはよう」が言えるはずです。
目を見ず、作業をしながらパソコンに向かって挨拶したり、誰でもない空間に向って「おはようございます」とつぶやくだけだったり、挨拶がない職場もあります。
まず挨拶から変えてください。
②発言リアクション
部下の発言に対し、どうリアクションしていますか?
ポイントは、部下の発言の内容がよかったかどうかの「結果」ではなく、発言したという「行動」に感謝を示すことです。
「意見してくれてありがとう」「よくしようと思ってくれてありがとう」と感謝を伝えたうえで、その中身を議論することで、相手は「発言してよかった」と思うようになります。
③仕事リアクション
部下の「仕事」に対するリアクションが変わると、部下の姿勢はかなり変わります。
ここでも重要なことは、仕事の内容がいいかどうかの「結果」ではなく、仕事に取り組んだという「行動」に感謝を示すことです。
「取り組んでくれてありがとう」「よくやってくれたね」「助かったよ」と感謝を伝えたうえで、「ここをもっとこうしてくれないか」「この部分はどうかな」と修正していけばよいのです。
■「ありがとう」の反対語は何か?
よく言われることですが、「ありがとう(感謝)」の反対は何でしょうか?
ありがとうの反対は、「当たり前」です。
感謝できない人は、全部当たり前だと思ってしまいます。
存在するのも当たり前、行動するのも当たり前、結果を出すのも当たり前。
仕事をしていたら、当たり前でしょ、と考えます。
これは、非常にもったいないことです。
仕事は結果を出さなければいけませんから、結果を出すまで部下と一緒に取り組む必要がありますが、「存在」と「行動」に感謝を示すことに、何のデメリットもありません。
挨拶、発言、仕事へのリアクションを「仕組み」としてほぼ自動的に感謝を伝えられるようになると、あなたの部下は変わります。
仕事に行くのが楽しくなり、行動するのが喜びになります。
仕事に意味を感じ(有意味感)、自分の仕事が役に立っている喜び(有効感)を得て、もっと役に立ちたいと思うようになります。
自ら目標を立て(自己決定感)、目標に向かって動くから成長し、成長を感謝されるから自分の成長を実感でき(成長感)、目標を達成することで達成感を得ます。
動機付け要因を生み出す原点は、感謝です。
存在と行動に、感謝できる人になりましょう。
するとあなたの部下は、ぴたりと辞めなくなるでしょう。