toshiのブログ

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「課長になりたくありません」昇進を拒否する部下を会社は懲戒処分できるのか

総務課長の座が急遽空くことになり、仕事ができる若手の主任を抜擢し、昇進の内示を出した。ところが、「課長になりたくありません」ときっぱり断られ、「どうしてもというなら会社を辞めます」とまで拒否されてしまったのだ。社労士に聞いたところ、最近はこのような相談が増えているという。最近、管理職になりたくない若年層社員が増えている理由とは?(社会保険労務士 木村政美) ● 若く優秀なC主任を、課長に抜擢したい <甲社概要> 従業員数300名の専門商社。 <登場人物> A:総務課長、40歳。 B:甲社の社長、50歳。 C:Aの部下で総務課第1チーム主任、32歳。 D:Aの部下で総務課第2チーム主任、38歳。 E:甲社の顧問社労士。 11月上旬、現在の総務部長が一身上の都合で年内に退職することになり、来年の年明けから総務部長に昇進することが決まったA課長は、B社長から「急いで後任を推挙するように」と言われた。 次の日の朝、A課長はB社長に、「私の後任となる総務課長にはC主任を推挙します。彼は仕事がよくできますし、人物も優秀。先輩、後輩関係なく皆に慕われています」 と持論を述べた。B社長は、「C君は主任になってまだ3年だし、年齢も若い。いくら何でも課長昇進は早すぎないか?むしろ私は主任歴が長いD君でいいと思う」と言ったが、それでもA課長がCを強く推したため、最終的にはB社長が折れた。B社長はA課長に、すぐにCに総務課長昇進の内示を出すように言った。 A課長は、その日の午後にCを呼び、来年の1月から自分が総務部長に昇進することを話した。そのことを聞いたCは笑顔になった。 「A課長、おめでとうございます。それで後任の総務課長はもう決まってるんですか?」 「そのことだが、社長に後任者を決めてほしいと言われたので君を推挙したよ」 「私をですか?」 Bは目を丸くして驚いた。A課長はてっきりCが喜んで総務課長になってくれると思ったのだが、Cは首を横に振りながらこう言った。 「ダメですよ。私なんか若輩者だし、実力不足ですよ」 ● 「昇進したくない」本当の理由とは Cが謙遜していると思ったA課長は、「そんなことはない。君は若いが仕事ができるし、チーム内だけではなく総務部内からの人望も厚い。私は君が適任だと思う。だからこの話、受けてくれるよね?」と、熱い口調で迫った。 しかし、Cは困った顔で返答した。 「私、総務課長にはなりたくありません」 「はあ?」 驚いて理由を尋ねたが、それはA課長が考えもつかないことだった。 「私は現在のキャパ以上に部下の管理や養成などの責任を持ちたくないんです」 Cは続けた。 「それにA課長は、私たちが仕事を上がってからも毎日遅くまで残業してますよね? しかも課長は管理職だから残業代が出ない。責任と仕事量が増えるのに、給料が今よりわずかしか増えないなんて嫌ですよ」 「しかし、早く課長になればそれだけ早く出世できるんだぞ。君だったら取締役だって夢じゃない」 「出世には興味ありません。自分にとって大切なのはキチンと仕事をして、趣味のボルダリングも楽しめる時間です。だからこの話はお断りします」 理路整然と反論するCに驚いたA課長は、これ以上返す言葉がなかった。 ● どうしても昇進しろというなら、会社を辞めます 次の日、A課長はB社長にCが自分の後任を断ったことを報告すると、B社長は信じられないといった表情をした。そして、「社員の希望をいちいち聞いていたら会社の人事が成り立たない。これは業務命令だ。」と言い、A課長に再度Cを説得するように言った。 部屋に戻ったA課長は再びCを呼び、業務命令として総務課長になるように告げたが、それでも拒否された。A課長は不機嫌な顔で言った。 「どうしても君が命令を拒否するのなら、業務命令違反で懲戒処分になるぞ」 「懲戒処分、それってクビですか?」 「それも考えられる」 「じゃあ、クビになる前に自分から会社を辞めます」 A課長は思わず「勝手にしろ!」と言い、部屋を出て行った。 翌日、出社したA部長の机の上には「退職届」と書かれた1通の封書が置いてあった。あわてて中を確認すると、Cが書いたもので、今月末で会社を退職したい旨が書かれていた。A課長はその封書を持って社長室に走った。 A課長はB社長にCの退職届を見せ、オロオロしながら言った。 「C君に今会社を辞められては困ります。彼は貴重な職場の戦力です」 B社長は深いため息をついた。 「C君がそこまで昇進を固辞するなら仕方がない。私の当初案通りD君に総務課長をやってもらおう」 ● D主任にも昇進を断られる 翌日、A課長はD主任に対して総務課長への昇進を打診したが、なんとこちらも断られた。理由は共働きの妻と一緒に2歳の双子の子どもの育児を分担していることと、同居している自分の父親の介護が必要なため残業ができないからだという。その返答にA課長はますます困ってしまった。もし自分の後釜が見つからなければ、せっかく閑職な上に権限を持つ総務部長のポストを得るチャンスを逃してしまうかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられない気分だった。 A課長が、Dからも課長昇進を断られたこととその理由を説明すると、B社長は嘆いた。 「昇進を立て続けに断られるなんて、こんなことは創業以来初めてだ。イマドキの社員は管理職になりたいと思わないのか?……しかし、このまま放置するわけにもいくまい。どうしたらいいか、E社労士に相談してみよう。E社労士に明日の夕方都合がつくかどうか聞いてみてくれ。面談には君も一緒に立ち会ってほしい」 ● 最近、管理職になりたくない若年層の社員が増えている理由 次の日の夕方、社長室に通されたE社労士は、早速A課長からC、Dの件について説明を受けた。説明が終わるとB社長がE社労士に質問した。 「他の会社でもウチの会社みたいな事例はあるのですか?」 「はい。最近は管理職になりたくない若年層の社員が増えているという話は聞きますね」 「それはどうしてですか?」 <社員から管理職昇進を断られる主な理由> 〇部下のマネジメントに対する責任が重くなるから。 〇今まで行ってきた担当業務に加えて、管理職としての業務が増えるから。 〇ワークライフバランスの重視 →世の中の風潮として、仕事と生活のバランスが取れるような働き方が好まれるから。 〇やむを得ない事情があるから →自身の健康面での不安、育児・介護等の家庭の事情など。 〇業務量が増えたのにもかかわらず、管理職になることにより残業代が出なくなり、実質給料が下がるから(一般的に課長職には役職に対する手当が支給されていることが多いが、その額が少ないケースもある)。 ● 昇進を拒否した社員を、会社は懲戒処分にできるのか? B社長は腕組みをして言った。 「個々の理由は理解できましたが、昇進を拒否されたら会社の人事が成り立たない。もし会社の業務命令を拒否した場合、懲戒処分にすることはできますか?」 <昇進を拒否した場合、懲戒処分にできるか> 〇会社から昇進の辞令を受けた場合、昇進について就業規則などに記載がある場合には、昇進のある労働契約を締結しているとみなされ、原則として拒否することができない。 〇上記の定めがあるにもかかわらず昇進を拒否した場合、辞令=業務命令であることから、業務命令違反として懲戒処分にすることは可能である。 〇ただし、絶対に拒否できないのではなく、どうしてもやむを得ない事情がある場合については会社が考慮する必要がある。 ○内示とは、辞令を発令する前に本人に打診することで正式な決定ではない。しかし内示を断ることは正当な理由がない限り難しい。 「D君が昇進を断る理由は納得できるが、C君のは理由にならん。彼が私の辞令を拒否すれば懲戒処分の対象だな」 B社長の発言にあわててA課長が横やりを入れた。 「ちょっと待ってください。C君には会社を退職されては困るんです」 E社労士が口を挟んだ。 「Cさんが総務課長になりたくない理由は、きっとA課長の普段の仕事ぶりを見ていて、自分にはとても務まらないと思ったのではないでしょうか?まずはA課長の業務について見直しを図る必要がありますね。本来の業務以外に、無駄な会議への出席とか雑務が多くないですか?」 A課長は頭の中で自分の業務をひとつひとつ確認しながら答えた。 「そうですねえ……確かに毎日最低1つの会議や打ち合わせに参加していますし、ここ2年間は社内全体で長時間労働を抑制していたので、書類の整理などの雑務は私が引き受けることが増えました」 「そうそう、管理職は残業代を支払わなくて済むからね」 B社長の言葉に、E社労士は首を横に振った。 「今のA課長の立場が、労働基準法でいう管理監督者なのか確認が必要ですよ」 「えっ、どういうことですか?」 <労働基準法上の管理監督者の要件> ○出勤および退勤時間の制限がないなど、労働時間や業務量を自己裁量で調整できること。 ○地位にふさわしい賃金面などの待遇がなされていること。 ○自分が管轄する部署内において、職務内容や責任、権限が経営者と一体の立場にあること。 <上記で管理職として認められた場合の処遇> ○時間外、休日労働に対して残業代や休日出勤手当の支払いが発生しない。 (ただし深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要) ○労働時間や残業時間に上限を設けなくてもよい。(ただし労働時間の把握は必要) ○8時間以上労働した場合でも休憩時間を設ける必要がない。 ○法定休日の適用から除外される。 ● A課長は法律的には管理職といえないのでは? <A課長は法律的に管理職といえるのか?> ○総務部の権限は総務部長にあり、自分は部内の意思決定にはほとんど関わっていない。 ○労働時間については、部下と同じ管理方法であり自己裁量権がない。 ○雑務等、部下がその労働時間内でできない業務を代わりに行っていた。 ○課長としての役職手当が支給されているが、月3万円であり業務に対して相応額とはいえない。残業代が支給されないことにより、同年代の非管理職の方が賃金単価が高い。 B社長は、説明を聞いて驚いた。 「A課長は会社内では管理職扱いでも、法律的には管理職とは認められず、残業代の支給が必要なんですね?」 「その可能性は高いです」 「それでは総務課長の業務見直しを進めて残業を減らします。その上でどうすればC君を説得して総務課長にすることができますか?」 E社労士は次のようにアドバイスをした。 「一例ですが、Cさんを課長、Dさんを課長代理にして、総務課長の職務や責任を分担してみるのはどうでしょう」 B社長とA課長はその後、E社労士のアドバイスを参考にして早速総務課長の職務見直しを行った。総務部で新たにクラウドシステムを導入し、課員の雑務時間を大幅に減らし、部下の指導・育成や会議や打ち合わせへの出席は課長と課長代理が分担して行うなどの計画を立て、その結果1日当たり1時間以内の残業で済む目星がついた。そして改めてCを総務課長、Dを総務課長代理とする内示を出し、2人とも承諾した。 ● Cは総務課長、Dは課長代理に昇進。 A課長は晴れて総務部長に昇進したが…… そして年が明け、A課長は晴れて総務部長に昇進したが、B社長の命令でクラウドシステムの統括管理者になったため、歴代の総務部長より職務が大幅に増えてしまった。慣れないシステム管理に四苦八苦し、そのせいで当面は連日夜の10時まで会社に残ることになりそうだ。 「総務部長はヒマなはずだったのに、これじゃ話が違うじゃないか。トホホ……」と嘆きながら、今日もパソコンと格闘するA部長であった。